COLUMN

No.39
仕事のお断りをした日 2005/09/06

 先日、建築関係で大変お世話になった方から 「相談したいことがあるんだけど・・・」 と携帯電話に連絡があった。後日ご自宅へお伺いすることにして電話を切った。「もしかして・・・」 と思った。

 当日、ご自宅にお伺いすると、ご本人と奥様とがそろって席につかれ、「自宅の件なんだけどね、」 と切り出された。随分前にお会いしたときに、「住宅」 に関しての話題になり、その方も「本当に 「これだ」 という家を、3軒目とはいかないまでも、2軒目ぐらいはいつか建てたいよね」 と話していた。話を聞いてみると、子供さんはもう結婚もされて別のところに住まわれているので、今度は夫婦2人だけの、こじんまりとして小さいけど、その街並みの中では静かに存在感のある家を建てようと思っているそうだ。その施工をしてくれないか、とのことだった。

 その方のこだわりは半端ではなく、「普通の」 という言葉が通用しない。本人は 「普通の材料でいいよ」 とはいっても 「普通の材料」 では満足しないことも、「普通の納まりでいいよ」 とは言っても 「普通の納まり」 では満足しないことも私は知っている。だから、普通の工務店は工事を請けたがらないと思う。私も「普通の考え」でいったら、正直、請けたくない。予算も少ないから利益なんてものは出るはずもないだろうし、他の仕事も一切シャットアウトしてがむしゃらにやって、何とか満足してもらえるものができるかどうかだと思う。だけど、その方は今まで事あるごとに目を掛けてくれたし、人生最後の大事な家を創ることをこんな私に依頼してくれた。

 今までの恩返しをしなくてはならないのだけれど、ただ一点、時期が合わなかった。今まさに設計している住宅との工事の時期が重なるのだ。それぞれの仕事を中途半端にできる訳でもなく、私以外の人間に頼むわけにもいかない。だから、丁重にお断りした。非常に残念がられ、「君が現場を見ることができないのであれば、君に工事を頼む意味がない。」 と言われた。なんだか、重たい気持ちになった一日だった。

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