COLUMN
No.6
『知識』と『知恵』は似た言葉のようで、似ていない。
『知識』とは、学問であったりとか、情報であったりとかを「知っている状態」で、脳の引き出しにいろんな事柄を多く詰め込んだ人を「知識がある」とか「博学だ」とか言う。『知恵』とは「知識」をベースとして、それに自身の体験なども加えた「物事を解決できる能力」だと思う。
モノづくりの現場においても、「知識」があるだけではどうにもならない。「知識」をベースとした「知恵」を持っていないと、言い換えれば、「知っている」だけで「解決できる能力」がないと物事を完成させることはできない。
例えば材木に10cm x 10cm の穴があったとして、そこにちょうど10cm x 10cmの角材を入れる、とするときに一般的にはお互いに正確な穴であって角材であれば入ると考える。しかし、実際の現場では入らない。それは、ほんの少しでも凹凸があったり、繊維の方向が直交していたり、微妙に直角でなかったり、ほんの些細なことでも入らないのだ。じゃあ、角材を9.9cmにすれば入るだろう。たしかに入るが、すぐ抜ける。入りやすいものは抜けやすい。
どんな人でもわかる。
こういったことは大工さんは当然経験から知っている。だから大工さんは、10cm よりもほんの少し大きい角材を金づちで「叩く」。10㎝よりほんの少しだけ小さくして穴に入れる。穴にいれてから水を吹きかける。しばらくすると叩かれた角材はもとに戻ろうと穴のなかで膨らむ。穴と角材は隙間なくぴったりとくっついて抜けなくなる。これが『知恵』なのだ。
設計事務所を辞めて工務店に入った当初、兄貴によく言われたことば。「お前は知識はあるかもしれないが、知恵がない。」その『知恵』を自分のものにするには、物事の完成形だけを見ていてはいけない。
「10cmの穴に10cmの角材をぴったり入れる」には10cmより大き目のものを途中で10cmよりも小さくして、最後に10cmに戻す、という材料の特性だとか、仕事の過程だとかを知らないと『知恵』をもっていることにはならない。その『知恵』は教科書にも載っていないし学校の先生が教えてくれるものでもなく、地道に仕事をこなす職人さんが教えてくれる。
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